覚えのある古い船。

観光資源がある町に住む人達にありがちな話と同じく、私も誰かを案内する時しか行くことのない横浜の観光エリアです。遠方から来た知人を連れ、現在の姿になってからは初めて大桟橋に行きました。屋上からの眺めは横浜の夜景を見渡せる確かに素晴らしいものでしたが、そこはほぼ海の上であり、吹きすさぶ寒風に耐えられたのは10分にも満たなかったでしょうか。大桟橋にはロイヤルウイングという船が停泊中でした。
この船、元々は古いクルーズ船で、今から30年ほど前にエンターテイメント・レストラン船として改装されたそうです。バブル崩壊直前、当時のバンドメンバーの友人が参加しているイベントサークルがこの船を借り切り、数百人の学生を集め、バブルガムブラザーズや杏理、シーナ&ロケッツなどのコンサート、ビュッフェにディスコ、横浜の海をクルーズしながら船上パーティーという、いかにもバブルとしか言いようのない企画の中で、そのバブルガム達の出るコンサート会場に学生のバンドを何組か出したいと、我々のバンドにも声をかけてくれたのでした。
パーティー前夜、出演の学生バンド達は川崎の埠頭に集められ、音響機材や楽器などを船に積み込む荷役を、おにぎりとお茶という報酬で、しかも風雨でびしょ濡れになりながらやらされたのですが、この時、最初に何組も聞いていた出演予定の有名ミュージシャン達はバブルガムのみになっていたのでした。そして翌日の船上パーティー、出航直後に始まったバブルガムブラザーズのライブは数百人の学生で埋まり大盛り上がりであり、それが終わり、我々学生バンド達の出番となりました。
既にお察しいただいているでしょうか。海上での数時間、プロのライブ、酒・食事、異性との出会い、それらを求めて高い金を払いパーティーに参加した若者の誰が、シケた学生のオリジナルバンドなど聞くものでしょうか。たった5分ほど前まで目の前にあった数百人の人の波は幻のように消え、会場からは文字通り人っ子一人いなくなりました。しーんとして波に揺れる、誘拐されてぶち込まれた船倉のような場所で、2~3人のスタッフのみを前に演奏する中で、我々を誘った友人スタッフが申し訳ないと思うあまりか、1曲終わるごとに一人、ヒューヒュー言う声だけが響き渡る光景が強烈に焼き付いています。結果的にプロのミュージシャン達とのライブをエサに、前夜、安価な労働力として使われただけの我々は、まだ20歳を過ぎたばかりだったか。虚無という言葉もまだ使い慣れない頃の楽しい思い出、ロイヤルウイングはまだまだ現役らしくキラキラしていました。さよなら。
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category - ただの日記
- 2018/11/21 (水)